"夏二人で"・・時代を越えた鮮度とメルヘンの系譜
まる六CD発売記念という訳ではないが・・
このCDにも収録されている六文銭時代の歌を語ってみたくなった。
六文銭時代の歌と言えばフォーシーズンでも有名な" 街と飛行船"があるが,この"街と飛行船",実はおけいさんが参加する前からの六文銭の歌である。本来なら小室さんのファーストアルバムに収録されていたはずの曲であった。(この辺りの経緯についてはこへさんのHPに詳しいので割愛するが・・)
果たしてあの完成されたハーモニーがその時代からあったものなのか,あるいはおけいさんを迎えたことによって完成されたものなのかは残念ながらそれを知る情報は持っていない。しかし30数年前たくみが耳にしたこの歌はすべておけいさんが参加したバージョンだけしかないのも事実だが・・・。
そして今回取り上げるのは,正真正銘,第8次六文銭としての代表作だと思う"夏二人で"である。(昔,ひとりで2重録音して唄った恥ずかしい思い出も蘇るが・・)
小室さんがいる六文銭で,作詞はともかく作曲までこへさんというのは俄には信じがたい話だが,それは最後の六文銭の特徴でもあるのだけれど,小室さんの懐の深さというか,小室さんはグループを束ねる鵜匠のようにいいものはどんどん取り入れる自由さが六文銭にはあった。だから最後の六文銭に関してはこうした曲は結構多いのも事実だ。その中でも(個人的には)白眉なのはやはり"夏二人で"である。同時にデュエット曲であるこの曲は,六文銭解体後,おけいさんが復活するまでの28年間,事実上封印されていた曲でもあった。そして何よりこへさんや小室さんもおけいさん復活が予言されたかのように,他の歌手によって唄われることをことさら拒絶されていたようにも思う。
そう,ある意味この曲を再び生で聴く事ができるようになったことが,たくみにとってはまる六として復活したことの最大のメリットだと言っても過言ではない。
おけいさんとこへさんのデュエットで聴くこの歌の凄さは,曲として詞としての30数年前に書かれたものとは到底思えない,その鮮度にあると思う。比較しては恐縮だが,喜多條 忠の"神田川"はノスタルジーこそあれ,すでに70年代にその役目を終えた歌にしか思えない。
♪貴方は もう忘れたかしら 赤い手拭い マフラーにして
二人で行った 横丁の風呂屋 「一緒に出ようね」って・・・
(喜多條 忠 "神田川"より)
今の時代にこの歌の世界観はどんな意味を持つのであろう。その時代を生きた(そのくせ,多分その時代でも想像の世界でしかないのだが・・)人びとにはかろうじて理解できるのであろうが,今の時代に通じる歌とは思えない。丁度この歌が生まれた頃,懐かしのメロディとして戦争直後の歌謡曲に当時の歌を重ねて揶揄していた世代が支持した歌であったにも関わらず,この時代になって相変わらずこの歌に拍手を送っているのだとしたら,それは単なる世代の順送りだけで,当時フォークという名に新しさを求めた想いとは違うものだと思う。その意味ではフォークという名の演歌に過ぎず,歌謡曲であったのだろう。
無論,個人の趣向にケチをつけるつもりは毛頭ないが,今回のテーマである"夏二人で"との比較での検証&評価である点をご理解頂ければと思う。
一方メロディに関しても,くじらさんの哀愁に満ちたヴォイオリンのイントロで始まる曲は,詩同様,今聴くと裸電球の薄暗い湿気のある部屋の世界観をことさら強調したような感じで,果たしてそれを聴いてその世界に再び戻りたいと思わせる曲とは思えない。誤解を承知で言うなら,その当時感じたり求めた新しさは全くなく,戦後日本の歌謡曲の正統なる系譜の中にある曲にしか思えないとしたら言い過ぎだろうか?
それに対しての"夏二人で"である。
♪暑い夏の盛り場を僕達ウキウキ歩いた
光の隙間を擦り抜けては
どうしても真直ぐに歩けない 賑やかに賑やかに
出来るだけ賑やかに 長いドレスが欲しいな
あの 飾り 窓の ぽつんと一言 心の中に・・・
(及川恒平 "夏二人で")
神田川と同時代に,神田川と同じ若いカップルを題材にした詞にしてこの違いはなんだろう。高節が女性視点で唄ういかにも梅雨のある日本の湿っぽさに比べ,おけいさんとこへさんのデュエットはどこかメルヘンのように突き抜けていて,それでいて今の時代の若者にも通じる若さそのものを感じてしまう。神田川同様決して裕福な世界ではないけれど,そこにある世界観にはノスタルジーだけではない未来を信じる,信じられる若さがあると思う。だから,単に28年間封印されていただけではない鮮度,まさに2007年に発売されるCDに収録されていても何の違和感も感じない曲として心に響いてくる。
そして詞以上に,こへさん曰くギター奏法を覚えた記念に書いたと言われるメロディはあらかじめおけいさんやこへさんの歌唱があることを前提に作られたの如く,その世界観をメロディとハーモニーで生き生きと表現されていると思う。六文銭時代の"おもちゃの汽車"や"サーカスゲーム"などこへワールドの宝石のような詞の数々に通じる世界がそこにはある。
そして,どんなに優れた才能の持ち主であっても,その環境故に生まれる歌があると思う。この時代に生まれた歌の多くはこへさんの詞を原石として六文銭というコミュニティが持つエネルギーでどんどん化学反応を繰り返すように研ぎすまされ時空を越えた歌として昇華していったと思う。多分,想像だけどそんなエネルギーが満ちあふれた世界で歌が完成していく世界に身をおいていた六文銭のメンバーの方々はそれだけで楽しく嬉しくててしょうがなかったのだと思う。
2007年10月24日 キングサーモンのいる島から35年目に,まる六としてのファーストアルバムが発売される。そして18曲の中の1曲として,"夏二人で"が収録されている。当然のようにそれは35年前の歌としてではなく,2007年の歌として,おけいさん&こへさんのハーモニーは色褪せるどころか新たなエネルギーまで加わって輝いているように思う。
考えてみると,この歌そのもの以上に,この時代にまる六として,唄われること自体こそ,時空を越えた壮大なメルヘンかもしれない。"はじまりはじまる"という名のCDは,35年間の歳月を越えて再び歩みだした新しいメルヘンの続きの始まりのように思えた。
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コメント
凛太郎さん
相変わらずの言葉足らずでごめんなさい。
"今の時代の若者"なんて陳腐な言い方はダメですね。
"未来があることを疑うことも知らない時空を越えた
すべての人びとに"って言いたかったのかも知れません。
でも,
"自我爺さん"(まる六の皆さんの合い言葉だそうですが)で
言うと,
"35年間の歳月を越えて再び歩みだした新しいメルヘンの続きの始まり"って個人的には気に入っています。
ではまたご教授ください。
投稿: たくみ | 2007-10-23 21時59分
「夏・二人で」。なんとも素敵で可愛らしい(及川恒平さんの曲にこんな言い方をしていいのでしょうか?)曲ですよね。僕はもうこういう曲には「今の時代の若者にも通じる若さ」とおっしゃらなくてもいいような気がします。もっと普遍的なものと言いますか。時代を超えるだけでなく、遡及しても充分であると言いますか。例えば大正時代の人がこれを聴いても心が浮き立つのではないでしょうか。メルヘンはもしかしたら35年よりもっと時空を超えてしまう可能性もあるような。
そりゃ「畳」とか「グリーンサラダ」といった文言にどれだけ後世の人が反応してくれるかは未知数ですが、歌は歌詞だけではありませんからね。
結局、心象風景と重なり合うかどうかなのではないでしょうか。歌が古びていくかどうかは。「神田川」という歌は僕はあまり好きではなかったのですが、それでも歌詞と編曲は古びてもその心象風景はもしかしたら人によっては(若い人にも)まだまだ生きている感じもします。もちろんメルヘンとは程遠いと僕も思いますけど(笑)。おっとここに拘ってはいけませんね。たくみさんの言わんとしたことからずれる(汗)。
投稿: 凛太郎 | 2007-10-22 23時16分
浜ちゃん・さん
情報ありがとうございます。
源は先日,坂本さんがライブをされた所ですね。
組み合わせの意味が如何にも東京/大阪の間という感じで・・
まる六として名古屋がないのがなんとも残念です。
投稿: たくみ | 2007-10-21 09時30分
こちらの情報では、おけいさんと恒平さんプラス茶木みやこさんが12/26名古屋・源でライブするとオーナーのメールと源のHPから。32名限定となってます。12/8の京都のまる六ライブはチケット購入しました。こちらも会場のHPから。都雅都雅は開店から通い始めて16年かな。こちらは100名は入りますのでよろしく。さて今日は巣鴨に行くので食事と旅支度を。それでは失礼します。
投稿: 浜ちゃん | 2007-10-21 05時03分
まるちゃん
そう言えば,最初のきっかけも夏二人でだよね。
まだわからないけど,まる六が名古屋へ来るって話が
あるそうだけど・・
その前にたくみはまる六の日にマンダラへ行きたいな。
投稿: たくみ | 2007-10-20 19時37分
出ました。
たくみちゃん ありがと。
『ひとりで2重録音して唄った恥ずかしい思い出』共有。
投稿: まるちゃん | 2007-10-20 12時47分