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2012-06-17

六の日から4日後。 六文銭は無形文化財に。

六の日から4日後の日曜日。
時の記念日の午後2時34分、彼の娘さんから息が弱くなったと泣きながらの電話が入った。
実は土曜日の午前にも、奥様から同様の電話をもらったのだが、それは痰を取る際、神経を触ってしまって発作を起こしてしまったもので駆けつけた時にはすでに収まっていて、集まった家族もそれぞれ戻っていた後だった。
緊急入院から3週間、休み明けから人工呼吸器をはずして出来なかった心臓と肺の治療に取りかかるという、ほんの少し光明が見え始めた矢先だった。

だから今度も同じなのかなあと微かな期待を持って訪れた病室は、
家族が7人が声も出さず、異様な沈黙の中、すでに呼吸器もはずされた彼が横たわっていた。
一瞬、事態が理解できなかったがすべての補機類がはずされていることで状況を把握するしかなかった。
享年74歳。私とは17歳も違うけれどかれこれ30数年来の知人というか,友人というか、ご家族まで含めた腐れ縁の恩人である。(彼自身は対外的にはいつもマイナス10歳で通していたが)
実は、この場で家族以外は私だけなのだが、この一族の居候のように過ごしてきたので何の違和感もなくその場に立ち尽くしていた。

もはや意味もなく,痛みを押さえるために鎮痛剤によって意志を明確に伝えることさえできなくなってもはずすことがなかった腕時計が、入院直前まで仕事にクルマで走り回って彼らしさの象徴でもあるのだが・・。時の記念日に人生を終えるなんて出来過ぎだけど。

六の日、前半だけでどうしてもその日の内に戻っていたかったのは、
翌日から別の出張があり、ひょっとして何かあった時には駆けつけなければと言う想いがあったからなのだけど。

彼は出張の間だけは頑張ってくれたのかも知れない。
しかし、土曜日、せっかくリハーサルをしたのにあまりの急変に立ち会えたのは付き添っていた奥様と長女だけで娘夫婦、孫達は間に合わなかった。
せっかちすぎるよ。早とちりなんだから。いつもの口癖が思わず出てしまった。

しかし、マグロのような彼は動けなくなったら死んじゃうよね。仕事しながら死ねたら本望だからと家族も含めて思っていたから,らしいと言えばらしい。
ただ同時に人並み以上の恐がりで,寂しがり屋でもあるのでせめてみんなが集まるまで待ってくれてもいいのにと少しだけ口惜しさがこみ上げる。
いつもは1日でも早く退院したいと思っていたのが、もはや退院はままならぬと理解した時点で、生き続けるのが嫌になってしまったのか?
鎮痛剤を打つ前に家族ひとりひとりに抱きついたのが彼にとってはお別れのセレモニーだったのかも知れない。

さて、すっかり遅くなってしまったけれど、六の日、前半のレポート。
渋谷の七面鳥という名のライブハウス。久しぶりの都内での六の日だ。
皆さんにはある面、申し訳ないが、六文銭09'のステージは最早伝統芸能の域に入ってきたと思う。その分、それを体感するには、オーディエンス側にもそれなりの覚悟が必要な気がする。つまり、団塊の世代をビジネスの核とする所謂フォークソングブームとは一線を画すし、今の六文銭を懐かしさ、ノスタルジィで捉えることはできないと考える。
強いて言えば、歌舞伎やシェースクピア劇と同じで、今の時代のひとつと断面として存在しているから聞く事ができるのだと思う。
確かに出発の歌は、あまたある他の懐かしフォークと同じなのかも知れないが,同時に出発の歌が六文銭09を代表する曲かと言えば、それもまた決してそうではないのは明らかだ。
そしてこの日、渋谷に集ったオーディエンスの期待も違うものである。

この日のテーマは別役特集。
ただスタートは、個人的には六文銭を代表する曲だと思う、キングサーモンのいる島と夏、二人でだった。曲や詞は言うまでもないがアコースティックだけで表現される演奏、ハーモニーは誰にも真似のできないものだ。まさの芸、至芸だと思う。

そしてスパイ物語以前にこへさんが座付音楽家として創ったネコのうたや海賊のうたなどの劇中歌にはじまり、雨が空から降ればを含んだスパイ物語内でうたわれる楽団六文銭としての歌のメロディが続いていった。

小室さんによる常田さんの台詞廻しを含めて、別役劇が音楽だけで繰り広げられていった。
これをフォークソングなどと呼んでは失礼すぎるだろう。
まさに六文銭音楽と呼ぶにふさわしい世界だ。

できることなら、この至極のハーモニー、そして世界観を
もっと、もっと多く体験できるようになれば・・・

とにかくそれは無形文化財と呼んでもおかしくない、類い稀な存在なのだから。

個々の活動が充実するのはそれはそれですばらしいことだけど、
できることなら六文銭としてしか表現できない世界観を知る、体感できる機会がもっと増えることを願いながら、個人的な六の日を胸に刻んだ。

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