まもなくアメリカ大統領選、日本の腰抜けメディアと違ってアメリカのメディアは堂々と自らの立場を鮮明にする。マードックが乗っ取ったFOXを除けば、基本的に主要なメディア、ハリウッドでは民主党支持が大半を占める。これは冷戦時のアメリカの恥部であるレッドパージに対する良心みたいなものがあると思うが、現状では余にお粗末なブッシュに対する反発の方が大きいのかも知れない。
信じられないかも知れないけれど、2億超の人口を誇るアメリカではパスポートを保有するのは16%しかいない。つまりアメリカ人の大半は井の中の蛙、地球上にはアメリカの51州しかない感覚かな?。直接関係はないけど、アメリカ在住の映画評論家町山智浩さんの著者には"アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない"と言うのもあるくらいだ。
いずれにしてもソ連崩壊後の唯一の超大国アメリカの現実って知れば知る程恐ろしくなる。そしてこんな国のポチであることが一番としていた小泉・竹中ラインの愚かさも最近の金融恐慌を待つまでもなく、明らかなのだけれど。
さて、今日は少しロマンに満ちた話にしよう。
そんなアメリカだけど、そこで創られるドラマは高質であることは認めざるを得ない。日本の腰抜け局ではとてもできないような、まあ小泉の元秘書をスーパーバイザーに、ジャニタレ頼みのゴマスリドラマしか作れないのとは次元が違う、しかも現実の政治の世界をリアルに表現するドラマでありながら十二分にエンターテイメントに仕上げる力量には脱帽するしかない。
THE WEST WING=邦題はホワイトハウスはジョンウェルズの制作、アーロンソーキンの脚本で何度もエミー賞を獲得したドラマである。
アメリカの放送は1999年〜2006年、現実がお馬鹿なブッシュ政権下で、ドラマでは民主党政権の大統領とその政策スタッフ達の姿を描いている。まるでこちらの方が現実の大統領のように、ブッシュ政権に対するアンチテーゼのように描かれていると思う。当然、9.11のテロもリアルタイムで取り入れられており、ちょうどシーズン3では本放送前に特別番組として"イサクとイシュマエル"という名作も生んでいる(9.11直後にこんなのを放送できる度量は見習いたい)
あ〜相変わらず本文に入れない[m:57]
こんなにすばらしいドラマを韓流ドラマの為にシーズン4で打ち切ってしまったNHKだったけど、よくよく考えてみると自民党あたりから横やりが入ったかも知れないと思えてくるくらいアメリカ現政権、それにへつらう日本政府には耳が痛い内容もあったような気がする。その為かCSで放送されているシーズン5の冒頭には"原作を尊重して・・"なんて断りを入れている。
このシーズン5はリアルタイムでは2004年であるが、その101話が今回のテーマがある。
原題は"The Warfare of Genghis Khan"ジンギスカンの戦術とでも訳すのだろうか、ドラマでは"夜は暗く"となっている。
インド洋上空で核爆発が確認され、シチュエーションルームでの会議が始まる。核兵器を持っている国々で実験の予定はなかったため、新たに核兵器を持った国が現れたことを意味していた。結果としてイランによる核実験が疑われ、大統領はイランへの極秘爆撃計画を指示する。しかし・・それはイスラエルによるものと副大統領の機転により判明した。爆撃計画は寸前のところで回避され、大統領は急遽イスラエル首相をホワイトハウスへ呼び出すメインストーリーはこんな感じ。
これはこれですごい。イランの大使をスイス大使館に呼び出して確認する次第ややりとりも、当然さもありなんという内容だ。
爆撃命令を知ったスタッフがイランを空爆するのではなく"国連に任そう"と言うのに対し首席補佐官は"国連は何もしない。爆撃にも反対するだろう。そして我々を非難するだろう。だが(本音では)こうしたことはアメリカに何とかしてもらおうと思っている。そして我々を戦争屋とか帝国主義と呼ぶのに疲れたら、ほっとしたなと言いながら乾杯するんだ"と。このあたりも正にアメリカ政府の本音のように聴こえてくるのは私だけだろうか。
そしてクライマックスではホワイトハウスに呼び出したイスラエル首相と大統領はふたりだけでこんなやりとりをする。
イスラエルの核実験に対し、核拡散の驚異を諭す大統領に対し、イスラエル首相は"アメリカが理想とする地球上の核兵器の数はひとつでしょう。当然か傲慢かは別にして見当違いでしょう。"と答える。
更にイランの核開発がイスラエルに驚異を与えるのは認めるという大統領に対して"驚異ですって?600万の我が国民を抹殺したいと思っているのが2億人もいるのですよ。抑止力としての核は必要なんです。それは冷戦時代のアメリカの戦略と同じことをしているだけだ"と。
そしてイスラエルは核を持つのは国が生き延びるための手段だと言うのに対し、バートレット大統領はこう言って長い沈黙になる。イスラエルは国際的には核武装国でないけれど、アメリカの常識では当然核武装済なのだろう。直近でもリアルなブッシュはイランを次の標的として今回のドラマを現実のもののようにしようとしていたが、その背景にはドラマのようなアメリカ社会を影で支配するユダヤ=イスラエルの存在はそれだけ大きいのだろう。
そんな現実を踏まえた上で、しかしドラマではありながらバートレット大統領はこう話した。長いけれど全文引用する
"核爆弾の開発に関わった物理学者は全員その使用に断固反対しました。アインシュタイン、オッペンハイマー,シラード、ハンスベーテはこう書いています。水爆を使って戦争に勝ったとしても、後世理想の為に戦ったとは言われない。爆弾を試しただけだと言われる。ジンギスカーンの戦い方と比べられるだろう、最後の一人まで敵を切り殺したジンギスカーンと"
こんな脚本を書ける者は日本にはいないと思う。それが山田太一であろうが、倉本聡であろうが絶対できないだろうなって。愛だ、恋だ、家族だっていうレベルを越えた世界ではあるので。
しかしである。こんな政治ドラマでありながら、サイドストーリーとして以下のようなロマンに満ちた、それでいてメインともシンクロする周到さには、もう敬意を表するしかない。こんなドラマも年に1度は見たいなあ。
サイドストーリーでは同じ日、政策補佐官のジョシュはNASAの予算陳情を受けていた。火星探査計画で、400億ドル必要だと言うが、ジョシュは全く相手にせず軽くあしらってその場を後にした。
そのあと、その場にいたNASAの女性科学者(これがまた知的で美しい!)がジョシュのオフィスを訪れ,国民には心の豊かさも必要ではと言って"宇宙の姿を見てから結論を出してくれ"と観測会に誘った。
ネブラ星雲を見て驚くジョシュに科学者は"それはガスと塵でできている。星も生まれて死ぬの。私たちの体の原子も星の爆発から生まれた。ジョニミッチェルが歌ったとおり、私達は星屑ね"そうようやく、今回のタイトルの内容にたどりついたのだ。フ〜。
そのジョニミッチェルの歌は"ウッドストック"
その中で彼女は"私たちは星屑
私たちは金
私たちは10億年の古き木炭です
そして私たちはその庭に戻らねばならない"と歌っている。
この一見無関係なエピソードがどう結びつくのかって?
ここからは宇宙物理学になるが今年のノーベル賞とも関係があるのだが、
140億年前のビックバンで生まれた宇宙。しかしその時点では宇宙には水素とヘリウムしかなかった。その後核融合で元素番号26の鉄までは出来るが、27以降92のウランまでは存在しない。
鉄の原子核は極めて強固でそれ以降の原子は生まれない。これでは生物、とりわけ人間のような複雑な高等生物は生まれないのだ。
そのためには中心核の鉄がつぶれる超新星爆発が起こらなければならない。
それは鉄がつぶれることによって大爆発が起こるのだが、それを起こす為には鉄の原子核の陽子が電子を喰って中性子となり同時にニュートリノを吐き出す。この時出来た中性子が鉄とくっついて元素番号92番ウランまで一気に元素を作り出して宇宙の塵となって宇宙中にまき散らされていくことになる。この時バラまかれた92の元素があって初めて生物の誕生まで結び着くという壮大なドラマが生まれるわけだ。
しかし皮肉にも92のウランから、それによって生まれた人類がプルトニウム以降118までの元素を生成し、核爆弾を持つに至り、しかもそれを結局は自らを傷つけ合い、抹殺するために使用するというのはこれ以上に皮肉はないと思うのだが。
因みにこの超新星爆発を起こすためにはニュートリノが重力エネルギーを持って散らばらなければ爆発も起こらず、しいては戦争を起こす人間も生まれない。それを踏まえた上でのバートレット大統領の最後のコメントは本当に重いと思う。それを45分のドラマに凝縮するのも更に凄いけれど。
そしてウッドストックをオマージュしてジョ二ミッチェルが私達は星屑と歌うということに星空を見上げながらさりげなく織り込む心憎さ・・。
こんなドラマをもっともっと見たいと思った次第。
長い事ありがとうございます。たまにはね。連休だし・・
※参考までに
●ネブラ星雲のYou Tubeを(文字をクリック)
●ニュートリノ理論を小柴さんのお話で(文字をクリック)
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